ケルト神話のヘーラクレース、クー・クランの生涯を解説!(後編)


目次


  1. アルスターの英雄、クー・クラン
    • クールンギャの牛争い
    • 九日の衰弱とクー・クランの参戦
    • 神々の妨害と援助
      • モリガンの妨害
      • ルーの援助
    • 血塗られた闘争
    • 全面戦争
  2. クー・クランの死
    • メーヴの企み
    • 王殺し、三度
    • 英雄の最期
  3. 後編まとめ

    アルスターの英雄、クー・クラン


    クールンギャの牛争い


     クー・クラン伝説の中でも最大の見せ場と言えば、やはりアルスターとコノートの戦争の一幕でしょう。

     その発端となったのは、コノートの王アリルと、その妃メーヴとの間に起きた、ほんの小さな意地の張り合いでした。

     ひょんなことから財産比べをすることになった二人。

     いずれの宝も甲乙つけ難く、その結果は殆ど互角でしたが、アリルの所有する自慢の牡牛白い角フィンヴェナハにだけは、メーヴは匹敵するものを見つけることが出来なかったのです。

     そこでフィンヴェナハに負けない牡牛を欲したメーヴは、アルスター王国はクールンギャの街で「ドン・クールンギャ」と呼ばれている見事な牡牛を見つけ、交渉に失敗したときは奪ってでも連れて帰ってくるように言い含めて使者を遣わしました。

     幸いにも交渉によって牡牛は借りられる事になりましたが、酒で気の緩んだ使者が「破談になった時は強奪していくつもりだった」とうっかり零したものだからさあ大変。

     アルスターとコノートの間に戦争が勃発してしまいます。

     クールンギャの牛争いターン・ボー・クールンギャと呼ばれることになるこの戦いはのちに神々すらも巻き込み、クー・クランたちを中心として壮大なドラマを展開していくことになるのです。

    九日の衰弱とクー・クランの参戦


     さて、こうして始まった戦争ですが、アルスターの戦士たちの頭上には早速暗雲が立ち込めました。

     実は、アルスターにはかつて女神マッハが訪れていたのですが、当時妊娠していた彼女をもてなさなかったがために、男たちには呪いがかけられていたのです。

     その呪いとは、「アルスターに危機が訪れた時、戦えるものはみな身重の女性のように体が動かなくなり、戦えなくなる」というもの。

     九日の衰弱ケス・ノインデンと呼ばれるこの呪いによって、アルスター軍はその殆どが戦闘不能に陥ってしまいました。

     神の血をひいていたが故にかろうじて罹患を免れ、戦場へと赴いたクー・クランでしたが、いかな英雄といえども一人でコノート全軍と戦うのは無謀というもの。

     そこで彼は、敵の拠点を急襲しては一撃を与えて即座に撤退するゲリラ戦法を取ったと言われています。

    神々の妨害と援助


     この戦争で、クー・クランは主に二柱の神からの干渉を受けることになりました。

    • モリガンの妨害
    •  一柱目はマッハの姉にして戦争の狂乱を司る戦女神であった、モリガン

       クー・クランは戦争の最中、彼のもとを訪れたモリガンからの求愛を受けますが、今は恋愛している暇などないとして断ります。

       まさか人間に断られるとは思っていなかったモリガンは激怒し、以降ことあるごとに怪物に変身しては戦うクー・クランの前に現れ、妨害をするようになりました。

       しかし、話はそれだけでは終わりません。

       あくる日、今日も今日とてモリガンの変身した怪物に深手を負わせて撃退したクー・クラン。

       するとその晩、彼のもとに傷ついた老婆が現れます。

       この時、クー・クランが老婆に変身したモリガンの傷の手当をしてやったことで、モリガンは一転してクー・クランを援助するようになったのでした。

    • ルーの援助
    •  もう一柱の神はクー・クランの父親に当たる光の神、ルーです。

       それはクー・クランがコノートとの戦いの最中、モリガンの妨害にあって傷を負った時のこと。

       尚も戦場に向かおうとするクー・クランの前にルーが現れ、我が子を休ませると代わりに自らがコノートとの戦いに身を投じて三日の間戦線を維持しました。

       しかしその間に、未熟であったがゆえに戦士とは判定されず「九日の衰弱ケス・ノインデン」を免れた少年兵たちが戦場に投入され、命を落とします。

       長い眠りから目覚めてそれを知ったクー・クランは怒り狂い、前編で書いた「ねじれの発作」を発してコノート兵を蹂躙しました。

       そして、殺された少年兵一人につきコノート兵六名を殺し、少年兵たちの復讐としたと言われています。

    血塗られた闘争


     この損害を重く見たのはコノートの将軍、フェルグス・マック・ロイ

     アルスターの先王にしてクー・クランの養父でもあった彼がコノート側に居るのにはこれまた長い物語があるのですが、それはまた別の話。

     さて、彼は犠牲を最低限に抑えるべく一日一度の一騎打ちを提案し、クー・クランもこれを受け入れました。

     クー・クランにとっても同胞たちが「九日の衰弱ケス・ノインデン」から快復する時間を稼げるのは都合が良かったからです。

     こうして毎日一人ずつコノートの精鋭を送り込まれましたが、誰もクー・クランには敵いません。

     遂に追い詰められ、一騎打ちの誓いを破って大人数でクー・クランに挑みもしましたが、それすら返り討ちにされる有様でした。

     この体たらくにいよいよコノートの女王メーヴは焦りだします。

     考えた末、彼女はクー・クランに対抗しうる戦士として彼の兄弟子であったフェル・ディアドを呼び出し、策謀を巡らせてクー・クランと戦うことを強引に約束させました。

     川の浅瀬を決闘の場所に選んだ二人はそれから三日の間戦い続けますが、フェル・ディアドの硬い皮膚の前には名剣クルージーンも凶槍ドゥヴシェフも効果がありません。

     そこで、クー・クランの戦車を操る御者であったロイグはこの戦いの為に用意していた秘策を発動します。

     それは戦っているクー・クランへと野次を飛ばして「ねじれの発作」を引き起こすのに必要な怒りを掻きたてさせ、さらに川の上流からゲイ・ボルグを流してクー・クランに届けるというものでした。

     この奇想天外な作戦は見事に成就し、ゲイ・ボルグを受け取ったクー・クランが放った必殺の一撃は分厚い皮膚を貫き、フェル・ディアドを仕留めて見せます。

     かくして、クー・クランは辛くも兄弟子との戦いに勝利したのでした。

     いわく、この戦いはクー・クランのそれまでの人生で、最も激しく、厳しいものだったと語られています。

    全面戦争


     さて、クー・クランの奮闘によって時間は稼がれ、遂にアルスターの戦士たちが力を取り戻しました。

     ようやくアルスターとコノートの全面戦争の幕開けです。

     クー・クランは最初、この戦いには参加しませんでした。

     それまでの孤軍奮闘の傷を癒していた為です。

     しかし、その隙を突いたフェルグスがクー・クランの祖父であるコンホヴァル王を奪取。

     個人的な因縁があったフェルグスは彼を殺害しようとしますが、フェルグスの養子であり、もとはコンホヴァル王の実子でもあったコルマクによって止められました。

     彼は苛立ちを紛らわすべく、三つの丘を愛剣「カラドボルグ」で切り飛ばしたと言われています。

     このカラドボルグは、のちのアーサー王の剣「エクスカリバー」のモデルにもされました。

     さて、命は助かったとはいえ、一向に危険な状態であることには変わりないコンホヴァル王でしたが、体力を回復したクー・クランが戦場に舞い戻ると状況は一変します。

     というのもクー・クランがコンホヴァル王を取り戻しにやって来ると、養い子であった彼に剣を向けることが出来なかったフェルグスが抵抗せずに武装を解除したためでした。

     こうして一か八かの策すらも失敗に終わったコノート軍は士気が壊滅。

     アルスター軍に攻め込まれ、撤退にまで追い込まれます。

     そして、この戦いで辛酸を舐めさせられたメーヴもまた、クー・クランに強く執着するようになるのでした。


    クー・クランの死


     さて、長いようで短い彼の物語もいよいよクライマックス。

     ケルト神話を代表する英雄譚、その終幕は、ある陰謀から始まるのです。

    メーヴの企み


     牛争いでのコノートの撤退から少しして、メーヴは再び軍を編成しました。

     その目的は、煮え湯を飲まされたクー・クランへの報復。

     しかしクー・クランはあまりにも強く、正攻法では勝機がないでしょう。

     そこでメーヴが目を付けたのは、クー・クランが自らに課した

     犬の肉を食べない

     目下からの食事の誘いを断らない

     という、二つの"禁忌ゲッシュ"でした。

     彼女は手先をけしかけ、クー・クランに犬の肉を勧めることで、先述した二つの禁忌の間で板挟みになるよう仕向けます。

     ついに犬の肉を食べることを選んだクー・クランは"禁忌ゲッシュ"を破った罰を受け、半身が麻痺し動かなくなってしまったのでした。

    王殺し、三度


     しかし、それでもクー・クランは先のフェル・ディアドとの一戦でも活躍した御者ロイグが操る、マッハの灰色リアト・マッハサングレンの黒毛ドゥヴ・サングレンと名付けられた二頭の名馬に牽かれた戦車に乗り、侵略してきたコノートを打ち払う為戦場に赴きます。

     そこで、クー・クランに父を殺された戦士エルクは彼に復讐すべく策を練りました。

     「詩人の言葉に逆らわない」というクー・クランの"禁忌ゲッシュ"を利用し、詩人を使って槍を手放させたのです。

     クー・クランは詩人に向かって槍を「投げ」渡し、詩人と9人の命を奪いますが、槍はクー・クランの好敵手ライバルであったミュンスター王クー・ロイの息子、ルガズの手に渡りました。

     この槍は王を殺す。

     そう唱えた彼の手から放たれたクー・クランの槍は、御者の王たるロイグを貫き、倒れたロイグはクー・クランその本来の持ち主の腕の中で看取られながら息絶えます。

     相棒と死に別れ、なおも戦場を駆けるクー・クランでしたが、悪夢は終わりません。

     なんと、軍勢の中からまたもや詩人が現れ、クー・クランに槍を要求して来たのでした。

     先と同じように詩人へと槍を「投げ」渡し、再び詩人と9人を殺すクー・クランでしたが、帰ってきた槍は今度はクー・クランの戦車を牽く軍馬の片割れ、マッハの灰色リアト・マッハに命中し、馬の王はその命を奪われます。

     そして、三度目。

     今度こそ、コノートの狙い通りクー・クラン戦士の王に直撃した槍は、その脇腹を貫き、はらわたを大地に零させたのでした。

    英雄の最期


     戦場の足を担う戦車の御者と馬であり、それぞれがかけがえのない相棒であったロイグとマッハの灰色リアト・マッハを喪い、自らも致命傷を負ったクー・クラン。

     もはやここまでと察した彼は水場へと赴き、戦塵に汚れた腸を洗って再び腹に収めると、石柱に体を縛り付け、最期の戦いを敢行します。

     そして、偉大なる戦士の王は奮闘の末、立ったまま戦死して見せたのでした。

     末期、彼の肩にはモリガンの化身とされる鴉が止まったと言われています。


    後編まとめ


     クールンギャの牛争いターン・ボー・クールンギャからクー・クランの”立往生”までの物語、いかがだったでしょうか。

     前編で多くの出会いを経て、戦士としての名誉を獲得したクー・クラン。

     しかし後編では打って変わって、引き起こされた戦禍に否応なしに巻き込まれ、神々の思惑すらも渦巻く戦場の中で親友を自らの手にかけ、また古くからの仲間たちも次々と喪っていくことになります。

     そして遂には一度は退けたコノートから再編された兵隊が押し寄せ、戦いの果てにクー・クランはその命を落とすことになりました。

     ですがそんな死の間際に於いてすらクー・クランは戦士の誇りを失わず、最期まで戦い抜いたのです。

     無論、現代日本に生きる我々にしてみれば、"禁忌ゲッシュ"に従った末の死や戦士の誇りは馴染みが薄いもの。

     しかしだからこそこの機会に、遠く離れた国の文化や、遥かな時代の勇壮な英雄たちに思いを馳せてみるのも良いのではないでしょうか。

    画像=freepik

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