トロイア戦争 ー神々が仕掛けた10年の計画ー


目次



  1. 戦争の発端
    •  
    • ゼウスの計略
    •  
    • テティスの結婚
    •  
    • パリスの審判
    •  
    • メネラーオスの憤激

  2. 英雄たちの運命
    •  
    • パトロクロスの献身
    •  
    • ヘクトールの最期
    •  
    • アキレウスの急所

  3. 戦争の終わりと新たな物語
    •  
    • トロイの木馬
    •  
    • オデュッセウスの旅立ち

  4. まとめ

  1. 戦争の発端

  2. ゼウスの計略


     ある日、人間の数が増えすぎたと考えた神々の王ゼウスは、人間の数を減らすべく神々をも巻き込んだ大戦争を起こすことを計画しました。

     とはいえ、いかに神々の王であっても理由もなしに戦争を起こすことは許されません。

     そこでゼウスは、女神たちを利用することを思いつくのです。

    テティスの結婚


     ゼウスの計略の第一段階として、海の女神テティスと人間の王ペーレウスとの結婚が取り仕切られました。

     テティスは海の神ネ―レウスの娘であり、法の女神テミスによって「必ず父親よりも優れた子を産む」と予言された女神です。

     彼らの結婚式には数多の神々が列席しました。

     しかし、不和の女神であったエリスだけは招かれません。

     怒ったエリスは、式場に「最も美しい女神へ」と書かれた黄金の林檎を投げ込みます。

     この林檎に対し、所有権を主張した女神は三柱。

     ゼウスの后にして神々の女王たる、ヘーラー

     ゼウスの姫であり類稀なる軍略を誇る処女神、アテーナ―

     天空神ウーラノスから生まれた美と愛の女神、アフロディーテ―

     彼女たちは己こそが最も美しい女神であるとして、ゼウスに審判を求めました。

     余談ですが、この三柱の女神たちはそれぞれが「主権」、「戦闘」、「生産」という三つの社会的な階級を表しているとも言われています。

    パリスの審判


     審判を求められたゼウスは、「ヘーラーの夫であり、アテーナ―の父である自身にはその役目はふさわしくない」と、第三者に判決を委ねました。

     そこで選ばれたのが、当時はまだイーデー山で羊飼いをしていたトロイアの王子、パリスです。

     彼の前に降り立った三柱の女神は、それぞれが自身を選んだ時に見返りとして与えられるものをアピールします。

     神々の女王たるヘーラーは、「アジア全土の王としての地位」を。

     戦争を司る女神アテーナーは、「あらゆる戦いにおける勝利」を。

     美の女神のアフロディーテーは、「人間の中で最も美しい女」を。

     しかし、自分が王の子供であるとはつゆほども知らず、一介の牧人を自任していたパリスにとっては王冠も勝利も無用の長物でしかありません。

     彼はアフロディーテーを選び、アフロディーテーもまた、約束通り彼に「人間の中で最も美しい女」こと、スパルタの王女ヘレネーを与えたのでした。

     しかし、後にこの出来事こそが、ゼウスの計画した「神々をも巻き込んだ大戦争」の引き金となってしまうのです。

    メネラーオスの憤激


     アフロディーテーがパリスに与えた「人間の中で最も美しい女」こと、王女ヘレネー。

     実は彼女はこの時既にメネラーオスと結婚し、ヘレネーの父からスパルタ王の座を継いだ彼の王妃となっていました。

     さらに、先にも書いた通り彼女は絶世の美女。

     メネラーオスはほかの男たちと競い合いながらもアプローチを続け、見事彼女を射止めましたが、その際に競い合ったライバルたちとある取り決めを交わしていたのです。

     それは、「誰が選ばれようとも、選ばれた男が危機に陥った時には、全員で駆けつける」ということ。

     それが友情だったのか、それとも嫉妬からの凶行を恐れた保身だったのかは定かではありませんが、かくして彼のもとには各地から軍勢を率いた王や英雄たちが集うことになりました。

     彼らは数多の軍船に乗り込んで黒海を渡り、トロイアに攻め込みます。

     選ばれなかったヘーラー、アテーナー両女神、それに加えて海の王たる神ポセイドーンはアカイア(ギリシャ)方につき、一方で、トロイア方にはパリスに選ばれたアフロディーテーとその愛人であった戦争の狂乱を司る神アレース、それから双子の神である太陽神アポローンと月女神アルテミスが加護を与えました。

     こうしてゼウスの思惑通りに、トロイア戦争は始まったのです。


  3. 英雄たちの運命

  4. パトロクロスの献身


     トロイア戦争において大きな活躍をし、その名がアキレス腱の由来にもなっているアカイア方の英雄、アキレウス

     そんな彼はある時、ひょんなことからアキレウスはアカイア方の大将アガメムノーンと口論となり、ストライキを起こします。

     これによってアカイア方の士気は急降下。

     一気に劣勢に追い込まれました。

     そこに現れるのがアキレウスの親友、パトロクロス

     状況を何とかするべく、アキレウスのもとを訪れたパトロクロスはこう言います。

     「アキレウス、お前の鎧兜を貸してくれないか。それを着け、お前の兵たちを連れて戦場に出れば、彼らの士気も回復するだろう」

     これを承諾したアキレウスでしたが、それが悲劇の始まりでした。

     一度はこの作戦によって持ち直し、トロイア方の城壁を攻めるまでに至りましたが、パトロクロスは最終的に敵方の王子ヘクトールによって討ち取られてしまいます。

     この知らせを受け取ったアキレウスは怒り狂い、ヘクトールに復讐するべく戦場へと舞い戻ることとなるのでした。

    ヘクトールの最期


     パトロクロスの死を受け、悲しみに暮れるアキレウス。

     しかし、奪われた自身の武具でありパトロクロスの防具を取り戻すため、戦場へと復帰します。

     帰って来たアキレウスは凄まじい武勇を発揮しました。

     多くの戦士を倒し、前線を大きく押し上げてトロイアの城門にまで辿り着くと、そこで待ち受けていたヘクトールとの一騎打ちに見事勝利し復讐を果たしてみせるのです。

     しかし、復讐を終えても彼の怒りはまだ収まりません。

     アキレウスは尽きぬ恨みのままにヘクトールの遺体を戦車に括り付け、引きずりながら戦場を駆け回りました。

     この行為は親友たるパトロクロスの葬儀のために開かれた競技会が終わっても止まらず、トロイア方の大将にしてヘクトールの父であったトロイア王プリアモスが直々にアキレウスのもとを訪れ、遺体の返還を嘆願するまで続いたと言われています。

    アキレウスの急所


    その後も活躍を続け、アマゾーン女王ペンテシレイア暁の女神エーオースの息子にしてアキレウスに匹敵する戦士メムノーンなどと渡り合い、討ち取っていったアキレウス。

     しかし、そんな彼自身にもとうとう死の運命が襲い掛かりました。

     ある日、トロイアのスカイアイ門を巡って戦っていたアキレウス。

     そんな彼に向けて一本の矢が放たれます。

     放ったのは、ヘクトールの弟でこの戦争を引き起こす原因となったトロイアの王子、パリス。

     彼の矢はアキレウスのかかとに見事に突き刺さりました。

     踵は母テティスが唯一不死にし損ねたアキレウスの急所。

     そこを射抜かれてなおアキレウスはトロイアの軍を追い回して見せましたが、ついに力尽きます。

     遺体は大アイアースオデュッセウスによって回収され、二人の決闘の果てに鎧はオデュッセウスへと受け継がれました。

     なお、大金星を挙げたパリスでしたが、この後へーラクレースからヒュドラ―毒の矢を受け継いだ弓の名手ピロクテーテースに射抜かれ、命を落とすこととなります。

     10年にも及ぶギリシア神話最大の戦争、その元凶にして神々の思惑に踊らされた哀れな王子の、あっけない最期でした。


  5. 戦争の終わりと新たな物語

  6. トロイの木馬


     アカイアの主力であったアキレウスが倒されたアカイア方は、泣きっ面に蜂とばかりにさらなる窮地に追い込まれることになります。

     というのも、彼らが勝つためには条件を満たさなければならない、という神託が与えられたからでした。

    その条件とは、アキレウスの息子ネオプトレモスが戦争に参加すること、イーリオス(トロイア)の神殿に安置されたアテーナーの神像パラディオンがトロイアの外に持ち出されること、そしてイーリオス城の正門が破壊されること、の三つ。

    ネオプトレモスの加勢はつつがなく取り付けられ、神像もオデュッセウスの活躍によって無事に盗み出すことが出来ましたが、残る一つの達成にアカイアの武将たちは頭を悩ませます。

     これを解決すべくオデュッセウスが考えついたのが、後世に名高き「トロイの木馬」でした。

     作戦の内容は以下の通り。

     兵士たちに巨大な木馬を造らせたオデュッセウスはネオプトレモスらほか幾人かと共にその中に潜むとアカイア軍を引かせ、トロイア攻略を諦めたように見せかけます。

     引き払われ、もぬけの殻となった陣に攻め込んだトロイア軍はオデュッセウスの狙い通り、そこに鎮座する巨大な木馬を神への供物として自陣へと持ち帰りました。

     当時のギリシャでは戦争の行く末は神によって左右されるものとされており、そのことから戦いに勝利したならば感謝のしるしとして捧げものをしなければ災いがあると考えられていたためです。

     しかし、木馬は大きすぎるためにイーリオス城の正門を通りません。

     アポローンの神官ラーオコオーン、並びにアポローンから予言の力を授かった王女カッサンドラーは木馬が災いを招くものであることを見抜き、反対しましたが、カッサンドラ―は力と共に与えられた呪いによって誰にも信じられず、ラーオコオーンはアテーナーの怒りを買って子供たち諸共巨大な蛇の怪物に殺されてしまいました。

     戦争が終わったと思っているトロイア軍は僅かな反対を押し切り、自ら正門を破壊して運び込みます。

     かくして、木馬の中に潜んだ兵士たちは最後の条件を達しながら見事に城内への侵入を果たし、ネオプトレモスがプリアモス王を殺害してイーリアス城を陥落せしめたのでした。

    オデュッセウスの旅立ち


      数多の犠牲を払った10年にも渡る戦争はこうして終結しました。

     しかし、そこに集った英雄たちの物語はこれで終わったわけではありません。

     戦争が終わった後、敗れ去ったトロイアの王族たちの多くは命を奪われるか捕虜へと身を落とします。

     アカイアの大将アガメムノーンもまたトロイアの王女カッサンドラ―を我が物とし、自らの治めるミュケーナイへと帰りますが、彼には王妃とその不倫相手に殺される運命が待ち受けていました。

     そして副将であったメネラーオスは戦争のきっかけであり、自らを捨てたヘレネーと再会。

     彼女を殺そうとしましたが、とうとう殺すことは出来ずともにスパルタへと帰ります。

     そして、アカイア方においてアキレウスに次ぐ英雄であり、彼の死後は決闘によってその鎧の継承者となった、イタケー王オデュッセウス。

     彼は生き残った兵たちと共に船に乗り込み、故郷へと舵を取りました。

     『オデュッセイア』において語られるその旅路は、その最中にポセイドーンの怒りを買ったことで大きな波乱を呼び、彼が再び故郷の土を踏むまでには実に10年もの月日が流れることとなるのです。


  7. まとめ

  8.  トロイア戦争は、ギリシャ神話の中でも最も壮大で波乱に満ちた物語の一つです。

     女神たちの情念や英雄たちの軍略、そしてトロイアの滅亡まで、それぞれのエピソードがドラマティックに描かれています。

     この戦争を詳細に語るホメロスの叙事詩『イーリアス』をはじめとする多くの作品は、後世の文学や芸術にも多大な影響を与えました。

     現代では考古学的な研究により、トロイア戦争が単なる神話ではなく、紀元前13世紀頃のミケーネ文明と関連した歴史的事実である可能性も検討されています。

     こうした歴史的背景を持ちつつも、神話と現実の境界で繰り広げられる英雄たちの機知や人間ドラマもまた、この物語を一層魅力的なものにしました。

     ギリシャ神話の叙事詩が語るトロイア戦争、その神秘と壮大なストーリーはこれからも私たちの想像力を刺激し続けることでしょう。

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