再構成:ヘーラクレース、その輝かしい功績と生涯

※注!:この項目は5,000文字以上の文字数を持ちます。時間的余裕のある時にお読みください。

目次


  1. アルケイデスの誕生とその背景
    • ゼウスとアルクメーネーの物語
    • ゼウスの宣言とヘラのたくらみ
    • ヘラと「ミルキーウェイ」の起源
    • 幼き英雄、最初の試練
  2. 「へーラクレース」の誕生
    • 英雄への成長と得た幸福、そして……
    • 「ヘラクレスの選択」
  3. 十二の功業:へーラクレースの冒険
    • ネメアーの獅子
    • レルネーのヒュドラー
    • ケリュネイアの鹿
    • エリュマントスの猪とへーラクレースの過ち
    • アウゲイアースの厩舎
    • ステュムパーリデスの鳥
    • クレーテーの牡牛
    • ディオメーデースの人食い馬
    • アマゾーン女王ヒッポリュテーの腰帯
    • ゲーリュオーンの牛とへーラクレースの柱
    • ヘスぺリデスの黄金の林檎
    • ハーデースの猟犬ケルベロス
    • その他の数多の冒険
  4. 「最大の英雄」の最期
    • デーイアネイラとネッソスの血
    • へーラクレースの死
    • 英雄神・ヘーラクレース
    • 「へーラクレイダイ」
  5. まとめ

  1. アルケイデスの誕生とその背景

  2. ゼウスとアルクメーネーの物語


     十二の難業を成し遂げ、最後には神へと至ったギリシャ神話最大の英雄、へーラクレース

     そんな彼の誕生には、ある特別な背景があります。

     彼の父であるゼウスは、神々の王として知られる存在であると同時に愛多き事でも知られた神。

     一方、母アルクメーネーは、偉大な勇者ペルセウスを祖父にもつ血統の高貴な女性でした。

     ゼウスはアルクメーネーの美貌に心を奪われ、彼女の夫であるアムピトリュオーンの姿に変身して近づきます。

     こうして、後に英雄へーラクレースへと成長する少年、アルケイデスは生まれました。

    ゼウスの宣言とヘラのたくらみ


     アルケイデスの運命は、彼が生まれる前から波乱に満ちたものでした。

     ゼウスは彼が生まれる日を特別なものにするべく、その日最初に生まれる子が将来ミュケーナイを支配する偉大な王になるであろうと宣言します。

     しかし、ゼウスの妻であるヘーラーはこれを快く思いませんでした。

     嫉妬に燃えたヘーラーは、ゼウスの計画を阻むため、出産の女神エイレイテュイアを送り込み、アルクメーネーの出産を遅らせる策略を立てます。

     結果、アルケイデスよりも早く生まれた従兄弟エウリュステウスがミュケーナイの王となり、のちにへーラクレースに十二の難業を課すことになるのです。

    ヘラと「乳の道」の起源


     ゼウスは自分の子であるアルケイデスに神の力を与えるため、妻ヘーラーの乳を飲ませる計画を立てます。

     しかし、彼の咬む力があまりにも強かったため、ヘーラーは驚いてアルケイデスを放り出してしまいました。

     このときこぼれ落ちた乳が夜空に広がり、現在の「乳の道ミルキーウェイ」、即ち天の川が生まれたとされています。

    幼き英雄、最初の試練


     ゼウスとアルクメーネーの不義の子であるアルケイデスに対して、ヘーラ―は憎悪と殺意をもってあたりました。

     その一つが、彼がまだ赤ん坊であるときに仕掛けられた事件です。

     この時、ヘーラーは幼いアルケイデスの寝床に二匹の巨大な蛇を放ちました。

     しかし、この試練さえもアルケイデスの力を証明する場となります。

     まだ幼い彼は素手で蛇たちを締め上げ、見事に退治してしまったのです。


  3. 「へーラクレース」の誕生

  4. 英雄への成長と得た幸福、そして……


     幼い頃から特別な力を持っていたアルケイデスは、成長してからも英雄としての素質を発揮します。

     彼の教育は、武術から音楽まで多岐にわたり、それぞれその道の一流の講師たちから直接の指導を受けました。

     (時には、竪琴の教師であったリノスに殴られて逆上し、反対に竪琴で殴り殺してしまう、という事件も起きましたが……)

     やがてアルケイデスは戦争で功を挙げると、テーバイ王クレオーンの娘メガラ―と結婚して家庭を築きます。

     まさに順風満帆……かに思われたアルケイデスの人生でしたが、その幸福も長くは続きません。

     ある時、ヘーラーによって狂気を吹き込まれ、自らの三人の子供たちと、異父兄弟であったイーピクレースの子供を手にかけるという悲劇が起こったのです。

     この痛ましい事件は、アルケイデスを罪の意識へと追い込み、彼の運命を大きく変えることとなりました。

    「ヘラクレスの選択」


     家族を失ったアルケイデスは、その罪を償うため神託で名高いデルポイを訪れます。

     そこで太陽神にして予言の神でもあったアポロンから告げられた方法は、ミュケーナイの王エウリュステウスに仕え、彼の指示する十の試練を完遂することでした。

    これを受けてミュケーナイ近郊のティーリュンスに居を構え、試練に備えた彼をデルポイの巫女が「ヘラの栄光へーラクレース」と呼んだのがその名の始まりだと言われています。

    こうして、生まれ故にヘーラーに忌み嫌われ、ヘーラーの狂気によって家族を殺した、ヘーラーの栄光の名を背負う男の贖罪しょくざいの旅が始まりました。

     ちなみに、罪を償うことを放棄した人でなしとして易い道に逃れるよりも、美徳の為に困難な道を行くことを選んだ彼のこの逸話は、「ヘラクレスの選択」とも呼ばれています。


  5. 十二の功業:へーラクレースの冒険

    •  ギリシア神話の中でも、へーラクレースの「十二の功業」は、英雄としての彼の実力と試練に満ちた人生を象徴するエピソードです。

       これらは、彼が自らの罪を贖い、ゼウスの血を引く者としての力を示すために課せられた試練であり、それぞれが壮大な冒険物語を形成しています。

    • ネメアーの獅子

    •  最初の功業では、へーラクレースはネメアーの谷に棲む恐ろしい獅子を退治する使命を受けます。

       この獅子は怪物の王テュ―フォ―ンが生み出した存在で、その皮膚はどんな武器でも傷をつけられないほどでした。

       このため、へーラクレースは、獅子を棍棒と素手で仕留めることになります。

       獅子を倒した後、へーラクレースはその毛皮を剥ぎ取り自らの鎧としました。

       この逸話によって、獅子の毛皮はへーラクレースの象徴となったのです。

    • レルネーのヒュドラー

    •  次に挑んだ試練は、頭を九つ持つ毒蛇ヒュドラーの討伐でした。

       この怪物は這った跡には草木も生えぬ程の強力な毒を持ち、なおかつ切り落としても倍の数の新しい頭が生え、また最後の一本は不死という恐ろしい怪物です。

       そこでへーラクレースは知恵を働かせ、切り落とした頭の切り口を同行者であった甥のイオラオスに焼かせて再生を防ぎ、最後に残った不死の首を大岩の下敷きにして封印しました。

       ところが、へーラクレースに自身の王位が狙われている(と思っていた)エウリュステウス王にこの戦いは一人では成し遂げられなかった、として功業を無効とされてしまいます。

       結果、ヘーラクレースは追加でさらなる冒険を強いられることとなりました。

       また、この試練でヒュドラーから得た毒を矢に塗り、冒険で使用するようになりますが、これがのちに悲劇を生み出すことにもなるのです。

    • ケリュネイアの鹿

    •  三番目の功業では、女神アルテミスの願いで黄金の角を持つケリュネイアの鹿を捕獲することになりました。

       この鹿は非常に素早く、捕らえることがほぼ不可能とされていましたがへーラクレースは一年もの間鹿を追い続け、最終的に捕らえることに成功します。

       鹿はその後、兄弟であった他の鹿たちと共にアルテミスの戦車を牽くようになりました。

    • エリュマントスの猪とへーラクレースの過ち

    •  四番目の試練は、人々を恐怖に陥れていたエリュマントス山の巨大な猪を捕まえることでした。

       へーラクレースは巧みな狩猟技術を駆使し、この猪を捕らえミュケーナイへと運びます。

       しかし、この功業に関連して、ある悲劇が起きました。

       この冒険の最中、宴の酒に手を出してしまったへーラクレースはケンタウロスたちと争いになり、ヒュドラ毒の塗られた矢が狙いを逸れてケンタウロス族の賢者にしてへーラクレースの師であったケイローンに命中してしまうのです。

       不死身のケイローンはそのあまりの苦しみに自ら不死を捨て、死を選びました。

       このことを悲しんだゼウスによって、彼の魂は天へと上げられ、いて座(またはケンタウロス座)にされたと言われています。

    • アウゲイアースの厩舎

    •  五番目の試練では、アウゲイアース王の3000の家畜がいる、実に30年もの間放置されていた厩舎を掃除するという任務が課されました。

       へーラクレースは「厩舎を1日で掃除できたならば家畜の10分の1をもらい受ける」という約束をアウゲイアース王と交わします。

       この約束を果たすべく、へーラクレースは神の力を借りて川の流れを変え、厩舎を洗い流すという方法で見事に試練を達成しました。

       しかし、無理矢理に川の流れを変えたことが原因となり、後にこの川はたびたび氾濫を起こす暴れ川となってしまいます。

       また、アウゲイアースにも約束を破られ、家畜を譲り受けることは出来ませんでした。

       そしてエウリュステウスからも罪を償うための試練で報酬を受け取ったことを咎められ、ヘーラクレースは再び試練を増やされることになるのです。

    • ステュムパーリデスの鳥

    •  六番目の試練ではステュムパーリデス湖に巣食う恐ろしい人食い鳥の群れを退治することになります。

       しかしこれらの鳥は鋭利な銅の羽と爪、くちばしを持ち、矢も効果がありませんでした。

       そこで、へーラクレースは鍛冶の神ヘーパイストスから巨人も目を覚ます大きな音の鳴るガラガラ(陶製の容器に陶器の球が入った玩具)を借り受けます。

       そして群れる鳥たちを追い払い、一匹ずつ素手で退治したのでした。

    • クレーテーの牡牛

    •  七番目の試練では、クレーテー島で暴れ回る牡牛を捕らえる任務が課されます。

       この牡牛は海神ポセイドンによって送り出された怪物であり、美しいながらも非常に狂暴な存在でした。

       しかしへーラクレースにとっては敵ではなく、彼はこれを素手で取り押さえ、見事無傷のままミュケーナイへと連れて行って見せるのです。

    • ディオメーデースの人食い馬

    •  八番目は、ディオメーデース王が飼育し、旅人へとけしかけていた恐ろしい人食い馬を捕まえるという試練でした。

       へーラクレースはディオメーデースを打倒し、逆に彼自身を餌として馬を大人しくさせた後、無事に馬を捕えることに成功します。

    • 女王ヒッポリュテーの腰帯

    •  この試練では、アマゾネスたちの女王ヒッポリュテーが所持する魔法の腰帯を手に入れることを求められました。

       女王は帯の譲渡に同意したものの、アマゾネスの一人に変身したヘーラーによってへーラクレースがヒッポリュテーを攫おうとしている、という嘘が流されます。

       結果、交渉は決裂。突如として襲い掛かって来たアマゾネスたちにへーラクレースもまた罠だったのだと勘違いをし、ヒッポリュテーを殺して腰帯を持ち帰ったのでした。

    • ゲーリュオーンの牛とへーラクレースの柱

    •  十番目の功業では、西方の果てに住む三つの体を持つ巨人ゲーリュオーンを討伐し、彼の飼育する神聖な赤い牛を持ち帰るという任務でした。

       しかし、ゲーリュオーンの棲む島エリュテイア大洋オーケアノスの西の果てにあり、尋常な手段では辿り着くことが出来ません。

       そこでへーラクレースはなんと大胆にも太陽の神へーリオスを射落として脅し、彼から空を飛ぶ黄金の杯を借り受け、海を越えて見せたのです。

       かくしてエリュテイアへと降り立ったへーラクレース。

       目の前に立ち塞がった双頭犬オルトロスや番人エウリュティオーンも彼を止めることは出来ません。

       追いかけてきたゲリュオーンをも射殺し、へーラクレースは見事に赤い牛を手に入れたのでした。

      また、この冒険の途中、現在のジブラルタル海峡そびえていた山脈に行く手を阻まれたへーラクレースはこれを断ち割り、残った両端は「ヘーラクレースの柱」と呼ばれるようになったと言われています。

    • ヘスぺリデスの黄金の林檎

    •  十一番目の試練は、世界の端にある姉妹女神たちヘスぺリデスの園に実るという黄金の林檎を手に入れることでした。

       この林檎は神々の贈り物であり、黄金の蛇ラードーンが守っている為に入手は容易ではありません。

       そこで、へーラクレースはへスぺリデスの父親であった天を支える巨人アトラースに助けを求めることにします。

       ゼウスの赦しを得てカウカソス(コーカサス)山へと赴き、そこに縛り付けられていたプロメーテウスを解放することと引き換えにへーラクレースはアトラースの居場所を教えてもらいます。

       そうして出会ったアトラースは、自分が林檎をとってくる間代わりに天を支えておくことを条件に、へーラクレースの願いを聞き入れました。

       見事にラードーンを出し抜いて林檎を手に入れ戻って来たアトラースでしたが、再び天を背負う事を嫌がってへーラクレースにその任を押し付けようとします。

       そこでへーラクレースは策を巡らせ、「楽な支え方を教えてほしい」と言って再びアトラースに天を支えさせると、自身は見事に林檎を手に入れ凱旋したのでした。

    • ハーデースの猟犬ケルベロス

    •  最後の試練は、冥界の門を守る三つの頭を持つ猟犬ケルベロスの生け捕り。

       へーラクレースは冥界の王ハーデースとその妃ペルセポネーから許可を得て、ケルベロスを無傷で取り押さえました。

       このケルベロスが地上に連れ出された際、口から垂れた涎がトリカブトとなったと言われています。

    • その他の数多の冒険

    •  十二の功業以外にも、へーラクレースはギリシャ全土やその外の地で数々の冒険を遂げています。

       アルゴー船に乗っての金羊毛探索や私たちがトロイア戦争と呼ぶものの前に行われたという第一次トロイア戦争、神には殺せぬ大地の巨人、ギガンテスとの戦争(ギガントマキアー)などなど……。

       いずれの冒険も彼の力と知恵、そして英雄としての特質を輝かせるものでした。

       これらの試練はギリシア神話における最も偉大な英雄としての地位を確立し、人々に語り継がれていくことになったのです。


  6. 「最大の英雄」の最期

  7.  ギリシャ神話最大の英雄へーラクレース。

     意外にも、というべきかそれともやはり、というべきか。彼の最期は敵兵の剣や魔獣の爪牙によるものではありませんでした。

     この節ではそんなへーラクレースの最期とその後についてを解説していきます。

    デーイアネイラとネッソスの血


     功業を終えたへーラクレースはその後、カリュドーンを治めるオイネウス王の娘、デーイアネイラと結婚し、子供も生まれました。

     そんなある日、へーラクレースとその妻デーイアネイラが川を渡る際、ケンタウロスのネッソスがデーイアネイラを助けるふりをして襲いかかります。

     これを見たへーラクレースはヒュドラー毒の矢を放ち、ネッソスを射殺しました

     しかし、死の間際にネッソスは策略を残したのです。

     ネッソスはデーイアネイラに自らのヒュドラー毒が混じった血を「夫の愛を失わない薬」として差し出しました。

     そして「これにへーラクレースの衣を浸して着せるとよい」と言って息絶えます。

     デーイアネイラはこれを信じて受け取ってしまいました。

    へーラクレースの死


     後日、ヘーラクレースはオイカリアの王女イオレーとの浮気を疑ったデーイアネイラからネッソスの血を染み込ませた服を渡され着てしまいます。

     途端、効果を発揮したヒュドラ―毒が彼の全身に回り、肉体を焼けただれさせました。

     体中を蝕む毒に苦しむ彼はオイテー山の頂上に行き、薪を組み上げた台を作り上げるとその上に横たわります。

     そしてアルゴー船にも同乗した盟友である弓の名手ポイアースに火矢を放たせて毒に穢れた自らの肉体を焼き尽くし、人間としての自らの生涯を閉じたのでした。

    英雄神・ヘーラクレース


     死後、ヘーラクレースは天界へと迎え入れられます。

     ゼウスの娘に当たる青春の女神へーベーを妻に迎え、二柱の間にはアレクシアレースアニーケートスという子供も生まれました。

     そして人間としての生涯を終えたことで、ようやくヘーラーとも和解を果たすことが出来たのです。

    「へーラクレイダイ」


     ヘーラクレースの子孫たちは「へーラクレイダイ」と呼ばれました。

     彼らはミュケーナイ王であったエウリュステウスから玉座を奪うことを恐れられ、命を狙われます。

     しかし彼らはこれを返り討ちにし、エウリュステウスとその子供たちを倒すとギリシャ各地の王となりました。

     なおこの時アルゴスを支配したテーメノスの子孫ペルディッカスは、後に彼の名高きアレキサンドロス大王を輩出したマケドニアをギリシャ北方に建国することになります。


  8. まとめ

  9.  へーラクレースの物語は、ギリシャ神話において最も偉大な英雄として語り継がれる壮大な物語です。

     出生によるヘーラーの憎悪、恐るべき怪物、神々からの難題……。

     その功業の数々や彼の生涯で経験した苦難、そして神々との関わりは、当時の人々にとって憧れや教訓、そして信仰の象徴となりました。

     そしてその子孫たちもまた、それに恥じない活躍が神話の中で語られています。

     ギリシャ神話が築き上げたへーラクレースの伝説は、人間の限界を超える力や精神力を象徴するものとしてこれからも様々な創作物の中で形を変えながらも躍動していくことでしょう。

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